ICL(眼内コンタクトレンズ)は、専用のレンズを目内に挿入することで、近視、遠視、乱視などの屈折異常を矯正し、裸眼での生活を実現する視力矯正手術です。この手術は「有水晶体眼内レンズ」とも呼ばれ、水晶体を保持したまま行うため、自然な視力とピント調整の機能を維持しながら視力を改善します。
ICLはその安全性と効果が国際的に認められ、現在では全世界で200万以上の手術が行われており、非常にポピュラーな屈折矯正手術となっています。
ICLと他の屈折矯正手術、特に角膜を削るレーシック(LASIK)と比較すると、ICLはより幅広い適応範囲があります。レーシックには角膜の厚さや矯正できる度数に制限があるのに対し、ICLは角膜を削らないため、レーシックで適応外とされた多くの方がICLで治療を受けることが可能です。
ここではICLの年齢制限や適性年齢、注意点について詳しくご説明します。
年齢制限とその理由
ICLの年齢制限

- ICL手術が適応可能な年齢は18歳以上
- 年齢の上限制限はないが45歳くらいまでが望ましい
18歳未満の場合
成人になるまでの成長過程では、身体の発達と共に目も成長していきます。
近視の原因の一つでもある「眼軸(目の奥行き)」は成長期に伸びることが多く、視力が変動しやすい状態になります。さらに18歳未満の若者は外部環境の影響やストレスを受けやすく、これが視力の変動に影響を及ぼすことがあります。
そのため、18歳未満では視力が不安定であることが多く、術後の度数変化によるレンズの摘出や交換が必要になるリスクが成人に比べて高くなることから、この年齢層のICL手術は適応外として定められています。
45歳以上の場合
ICL手術に年齢上限は設けられていませんが、45歳前後が理想的とされています。
これは、45歳頃から白内障や老眼などの加齢に伴う目の病気が増えるためです。また、この年代からは糖尿病を含む全身疾患の発症率も高まり、これらが手術のリスクを高める要因となるためです。
ICLは水晶体を残したまま手術を行うため、水晶体の機能が衰える「老眼」を発症することがあります。老眼は水晶体の硬化により近距離のピント合わせが困難になる症状で、40代後半から発症します。老眼が進むと、近くを見るために老眼鏡の使用が必要になることもあります。

なお、最近では多焦点IPCLなど老眼に対応したICLも開発されており、屈折異常だけでなく老眼の改善も目指せます。さらに、白内障が始まっている場合には、多焦点眼内レンズを用いた白内障手術によって白内障と老眼、屈折異常を同時に治療することが可能です。
どの治療法を選ぶにしても、そのメリットとデメリットをしっかりと把握し、目の状態や手術のタイミングを医師と十分に話し合い、慎重に考えた上で決定することが重要です。
老眼の治療方法について
老眼の主な治療方法としては、まず老眼鏡による視力矯正が基本です。しかし、老眼鏡の使用頻度を減らし、裸眼での生活を望む場合は、手術する必要があります。
① 多焦点眼内レンズを使用した白内障手術
白内障は老眼と共に水晶体の老化による視力障害ですが、白内障の場合は水晶体が濁ることにより視界がぼやけるという症状が特徴です。白内障手術では濁った水晶体を除去し、その代わりに眼内レンズ(単焦点や多焦点眼内レンズ)を挿入します。これにより、水晶体のピント調整能力は失われますが、多焦点眼内レンズを使用することで、白内障のみならず老眼や他の屈折異常も改善し、老眼鏡の使用を減らすことができます。
老眼が始まると数年内に白内障を発症する可能性が高まりますので、多焦点眼内レンズを用いた早期の白内障手術は老眼の改善に効果的です。
なお、多焦点眼内レンズは老後の生活の質を変えるような大きなメリットがありますが、コントラスト感度の低下やハロー・グレアなどのデメリットもため、レンズの種類と特性、メリット・デメリットをよく理解し、患者様の生活の質に合わせた眼内レンズを選択することが大切です。
② 老眼用ICL(多焦点IPCL)

多焦点IPCL(EyeOL社製)は、老眼に適応したICLです。従来のICLが持つメリットを備えつつ、老眼の治療も可能です。
このレンズを眼内に挿入することで、眼鏡や老眼鏡、コンタクトレンズなしで裸眼での日常生活を送れるようになります。また、このレンズは可逆的であり、必要に応じて白内障手術などで容易に取り除くことができます。
多焦点IPCLは多焦点眼内レンズの技術を利用しており、目に入る光を様々な焦点距離に分けることで、近距離だけでなく遠距離の視力も矯正します。しかし、光の振り分けによるエネルギーの分散が原因で、コントラスト感度が従来のICL(STAAR Surgical社製)と比較して低下することがあります。
特に老眼が顕著な年齢層では、将来的に白内障を発症する可能性も高いため、通常のICL手術以上にデメリットやリスクを十分に考慮し、慎重に検討する必要があります。